選考委員賞

南馬込古民家改修

持ち家リノベーション・リフォーム

耐震+断熱

5,862万円

2021年07月

  • 断熱

    等級6

  • 耐震

    上部構造評点1.13

築140年の古民家を現代の性能を持たせて蘇らせ、次世代に住み継いでもらえるような改修内容としています。
「家族が安全に住まえる耐震性能とG2基準の断熱性能を持たせて欲しい」とのご要望を頂きました。
確認申請のない時代の築140年の古民家を、現代の法適合状況調査の指摘事項を是正し、古民家の伝統工法(木造軸組/束基礎・和小屋)を活かした改修を行い、Iw値(家の保有耐力/耐震のために必要な耐力)を1以上にしました。
基礎構造は既存の石場を残したまま新たにべた基礎を構築しました。構造体を数cm浮かせ、構造体の下に新たにべた基礎を打設するという通常とは逆の手順で基礎を施工しました。これにより基礎構造を現代基準以上に向上させるほか、基礎断熱を行うことで床下エアコンによる暖房が可能となりました。
構造体の補強と気密の確保に留意したこともあり、C値も0.6を確保することが出来ました。
他にも太陽熱パネルを積載し、自然エネルギーによる給湯設備を持たせています。
上記のような改修工事により、現代の新築以上の性能を確保した古民家として生まれ変わりました。
SDGsの理念に沿った改修工事 とし、使用できる古材は最大限に再利用するほか「11. 住み続けられる街づくりを」を実践しています。

【性能・施工内容】
Iw(家の保有耐力/耐震のために必要な耐力)は、改修前0.06(倒壊可能性大)から改修後1.13(一応倒壊しない)に大幅に向上
HEAT20/G2グレードを達成BELS☆☆☆☆☆を取得
BEI=0.68、UA=0.43、 C=0.6、ηA値 冷房期:2.8 暖房期:2.1
新建材は使わず、将来に渡って修繕しやすく再利用可能な自然素材を採用
太陽熱パネルによる給湯を採用
暖房は床の間下に設置した床下エアコン
冷房は小屋組みに設置したエアコン

【プラン決定のポイントと工夫】
敷地内には他にもいくつか建物がありましたが、全て築70年以上の既存不適格建築物となっていました。
その中で中心となる母屋は築145年ということもあり、当時としては農家として典型的な田の字型プランの間取りでした。
そのままでは現代風な生活は難しくなるので、北側に2階建て部分を増築(準防火地域ゆえに50㎡未満に制限)し、水回りと寝室を配置しました。
既存部分は「検査済証のない建築物にかかる指定確認検査機関を活用した建築基準法適合状況調査のためのガイドライン」に基づき、既存建物実測調査、適合状況調査を実施し、指摘事項の是正を行うことにより「建築基準関係規定への適合性確保可」との見解を頂くことが出来、増築部の検査済証を受領することが出来ました。
既存部分と増築部分の接合部分に構造壁を集約し、南側には庭と地域に開かれる大開口窓を設置しました。

【施主様ご感想】
「このイエだけは残して呉れ」というのが私の父の口癖でした。残すのなら、築145年のイエでも耐震的に安全であり、暑さ寒さを我慢せずに現代的な生活をしたいと考えていました。
改修が終わった我が家に住んでみて、古民家はこんなにも美しく優しいものなのかと日々感じています。
完成して1年を過ごし、夏涼しく、冬暖かい環境を実感しています。妻からの「古民家を改修することでもよいけど、とにかく暖かい家にはして欲しい」を適えることも出来ました。
解体せずに昔の姿を持たせたまま残すことが出来て、地域周辺の反応も得られるようになりました。ただ残すだけでなく「持続可能な開発」が可能な社会を作ることが大事なのではないかとも考えるようになりました。

投票数

268 269

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リノベーション後 After

南馬込古民家改修

座敷はリビングに改修され、床の間・仏壇も現代生活に馴染むように納めている。天井を撤去し、小屋裏空間も一体化させた。

南馬込古民家改修

南西角の押入れを撤去することにより、庭と地域に開かれた大開口が実現した。

南馬込古民家改修

既存部分と増築部の接合部。暗くなりがちな部分であったので、トップライトによる採光を採用。サーキュレーションを持つ間取りが、生活・家事ストレス軽減に寄与している。

南馬込古民家改修

もともと小屋裏内で見えてはいなかった屋根の裏側のトント葺きをそのまま意匠表現として見せるようにした。そのため断熱と耐震補強は外側(上側)に施した。

南馬込古民家改修

客間はダイニング、茶の間はキッチンに改修した。

南馬込古民家改修

玄関は既存の引分け戸を再利用した。そのため玄関部分は風除室的な扱いとし、断熱ラインから外し内部の扉で断熱している。

リノベーション前 Before

  • 南馬込古民家改修

    客間~座敷(仏間)

  • 南馬込古民家改修

    座敷~客間

  • 南馬込古民家改修

    玄関

  • 南馬込古民家改修

    和小屋

  • 南馬込古民家改修

    束基礎

  • 南馬込古民家改修

    座敷外部

リノベーション施工中 Process

  • 南馬込古民家改修

    蟻害によりスカスカの状態であったがレジンにより再生

  • 南馬込古民家改修

    グラスウールを充填し、断熱性能を取得

  • 南馬込古民家改修

    柱を持ち上げ根太を仮固定し柱脚カット

  • 南馬込古民家改修

    下から土台とアンカーボルトをセット。その後鉄筋と浮き型枠をセットしコンクリート打設

  • 南馬込古民家改修

    架構の補強は、水平・垂直の既存部材に補強材を挿入する工法を選択。それぞれの部材は材の歪み・傾きを調整しながら個別の金物により緊結された。

  • 南馬込古民家改修

    屋根の補強は、天井裏から現れたトント葺きを意匠的に生かせる工法を選択。既存瓦撤去後、野地板を構造用合板と垂木で補強し、再度瓦屋根で仕上げた。

間取り Plan

リノベーション前

  • 南馬込古民家改修

    【改修方針】
    ①確認申請の取得(増築部分)
    □既存部分は法適合状況調査の指摘事項を是正
    □資産価値の向上
    □必要な壁量を追加

    ②耐震改修
    □基礎と屋根架構の補強
    □Iw=0.06(倒壊可能性大)からIw≧1.00(一応倒壊しない)に改善

    ③断熱改修
    □HEAT20/G2グレードの達成へ
    □BELS☆☆☆☆☆の取得へ

    ④床下エアコン・太陽熱給湯の挑戦
    □高気密高断熱化に伴う挑戦

    ⑤間取りの改修
    □現代生活への適合

リノベーション後

  • 南馬込古民家改修

    【改修結果】
    ①確認申請の取得(増築部分)
    ☑確認済証取得(2020年5月22日付)
    ☑検査済証取得(2021年7月19日付)

    ②耐震改修
    ☑Iw=1.13(一応倒壊しない)に改修
    ☑大田区耐震補助金受領

    ③断熱改修
    ☑HEAT20/G2グレードを達成
    ☑BELS☆☆☆☆☆を取得(2022年3月28日付)

    ④床下エアコン・太陽熱給湯の挑戦
    ☑恒温室内環境(常時ほぼ摂氏20度)を実現

    ⑤間取りの改修
    ☑現代生活に合わせた間取りに改修し、回遊性を備え、
    オモテとウラが穏やかに区分された平面が実現

物件概要

所在地
東京都大田区
敷地面積
450.15㎡(136.17坪)
延床面積
127.11㎡(38.45坪)
構造
木造在来2階建
既存建築年
1878年(築146年)
改修竣工年月
2021年07月
省エネ基準地域区分
6地域
断熱性能
UA値:改修後0.43w/㎡・K
耐震性能
上部構造評点:改修前0.06 ⇒ 改修後1.13

企業紹介

企業名
株式会社あすなろ建築工房
Webサイト
https://www.asunaro-studio.com/
コメント

株式会社あすなろ建築工房は、横浜を拠点に、自然素材を用いた注文住宅やリノベーションを手掛ける設計事務所兼工務店です。

設計事務所のセンスと知識、工務店の技術と技能を融合させ、両者の強みを活かした「最適解となる家づくり」を手掛けています。
具体的には、パッシブハウスの設計・施工を得意としており、冬暖かく、夏涼しい、自然災害に強い家づくりを実現しています。また、自然素材をふんだんに使用することで、住む人の健康や環境に配慮した家づくりにも取り組んでいます。

手がける住宅は、いずれもシンプルで機能的なデザインが特徴です。また、自然光や風を効果的に活用した設計により、室内は明るく開放的としております。

あすなろ建築工房は、家づくりを通じて、住む人の豊かな暮らしを実現することを目指しています。

グレードとは

性能向上リノベでは、断熱と耐震のそれぞれの現行基準を3段階に分類し、基準を策定。性能向上リノベーションがされた証として、必要なエビデンス情報を登録し、安心・快適な家であるお墨付きの証として「性能向上登録証」を発行しています。これからの時代に選ばれる、安心・快適な家を可視化します。

断熱

ランク UA値 断熱等級
0.46 6
0.60 5
0.87 4
耐熱の説明

耐震

ランク 上部構造評点 耐震等級
1.5以上 3
1.25~1.5
未満
2
1.0~1.25
未満
1
耐震の説明
  • 建物は、自立循環型モデル住宅(在来工法)を対象に、地域区分は、6・7地域(都心部を中心)に策定しています。
  • UA値(外皮平均熱貫流率)とは住宅の内部から床、外壁、屋根(天井)や開口部などを通過して外部へ逃げる熱量を外皮全体で平均した値。値が小さいほど熱が逃げにくく、省エネルギー性能が高いことを示します。
  • 上部構造とは壁や柱など家の構造物のこと。上部構造評点とは、震度6強の地震で建物が倒壊しないために必要な力を数値で表した必要耐力(Qr)に対する現状の耐力の割合を表します。
  • 既存木造住宅の上部構造評点1.0、1.25、1.5は、品確法においての耐震等級1、2、3レベルに相当します。