特別賞

北山の家 ~祖父の想いを繋ぐ古民家リノベーション~

持ち家リノベーション・リフォーム

耐震+断熱

3,000万円

2022年02月

築60年の住居のリノベーション計画である。

敷地は福岡県との県境である佐賀県佐賀市富士町の山あいの集落である。標高約300mにあり、豊かな自然が溢れ、近くには県内有数の温泉地である古湯・熊の川温泉郷があり、県内外から多くの人が訪れる地域でもある。
建て主(妻)は元々福岡県古賀市で生まれ育ち、結婚後も福岡県で暮らしていたが、病を患った祖父を看病するため、計画地である富士町に移住することを決意する。看病をしながら、祖父と共に山の集落での暮らしを楽しむ中、看病の甲斐なく、祖父は他界してしまった。一緒に暮らすうち、祖父が昭和33年に建て、守ってきた家を住み継いでいきたいという想いに至った。

既存建物は山を背にし、谷側に表の顔を見せた建て方をしているものの、間取りは南向きのそれであり、西側に向いた土地には全く適しておらず、南側は床の間や仏間、押入、トイレで塞がって日が入らず、室内はどの部屋も薄暗く、サッシも木製のため、冬は厳しい寒さにさらされ、室内にいても氷点下になることもしばしばであった。母屋よりも古い農業用倉庫との間の隙間に作られた水廻りは狭く、細長い形状で、風呂の中に洗濯機が置かれており、風呂の熱源は薪であり、それは子ども達の仕事になっていた。しかしながら、シンプルな屋根形状が功を奏し、雨漏りなど建物の耐久性を損ねる問題点はなく、60年という長い年月を支えてきた構造体は健在であった。とはいうものの、建物を支える基礎は存在せず、石の上に柱をのせた伝統的な構法はこれから起こるかもしれない大地震への備えという点においては、心もとなかった。

構造はしっかりしているものの、脚元に不安のあった建物を持ち上げながら、基礎を新設し、上部構造との一体化を図り、適切に耐震改修を行った。
太い柱や力強い丸太梁など60年という長い年月を支えてくれた構造体は出来るだけ残し、間取りの不都合を解消すること、そして、古いものと新しいものとのデザインの融合に注力した。東西に極端に開きすぎた開口部を抑え、耐力壁の大部分を外周部で確保し、全面的に断熱改修を行うことでUa値は0.53まで向上し、内部は自由度の高い間取りを実現した。薪ストーブを中心とし、リビング・ダイニング・和室が一体となる大空間を実現し、複数の居場所を確保した。塞がれていた南側には大きな開口部を設け、温かな日差しを室内に取り込めるようになった。建物の端にあった座敷は中央に移設し、ご先祖様を奉る仏壇を家族の生活の中心で家族と共に過ごせるようにした。2階はダイナミックな丸太梁を露出し、白い抽象的なインテリアとの対比を図った。
建て主からは、冬は薪ストーブ1台で、夏は1・2階にそれぞれ設置したエアコン2台で生活できているようで、ほっとしている。

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リノベーション後 After

北山の家 ~祖父の想いを繋ぐ古民家リノベーション~

玄関からキッチンを見る。
2階床梁をそのまま表しとしている。
キッチンの食器棚には既存建具を使用し、かつての風合いを感じられるようにした。

北山の家 ~祖父の想いを繋ぐ古民家リノベーション~

ダイニングからキッチンを見る。
下屋部分は力強い丸太梁を表しとし、勾配天井のおおらかな空間とした。

北山の家 ~祖父の想いを繋ぐ古民家リノベーション~

和室からリビング・ダイニングを見る。
全ての空間がそれぞれの役割を果たしながら、薪ストーブを中心に一体となっていることが分かる。
インテリアにも既存の箪笥や建て主自身がリメイクしたTVボードを採用し、新旧の素材が融合する不思議な空間。

北山の家 ~祖父の想いを繋ぐ古民家リノベーション~

ダイニングからリビングを見る。
対角線上にプランを配置することで、より広がりを感じることが出来る。

北山の家 ~祖父の想いを繋ぐ古民家リノベーション~

2階子供室
天井を折り上げ、ダイナミックな小屋組みを表しとした。
1台のエアコンで空調するため、部屋上部は開放している。

北山の家 ~祖父の想いを繋ぐ古民家リノベーション~

階段からリビングを見る。
自然素材で仕上げたリビング空間。
薪ストーブの炎の揺らぎを感じながらくつろぐことが出来る。

リノベーション前 Before

  • 北山の家 ~祖父の想いを繋ぐ古民家リノベーション~

    玄関から次の間を見る。
    地方の農家住宅では一般的な田の字型プランであることが分かる。

  • 北山の家 ~祖父の想いを繋ぐ古民家リノベーション~

    台所出窓
    開口部は木製の箇所も多かった。

  • 北山の家 ~祖父の想いを繋ぐ古民家リノベーション~

    台所
    土間仕上げであり、食堂とはレベル差があった。古くから使っているかまどもある。

  • 北山の家 ~祖父の想いを繋ぐ古民家リノベーション~

    広縁下
    石場立て構造であり、基礎コンクリートは無かった。

リノベーション施工中 Process

  • 北山の家 ~祖父の想いを繋ぐ古民家リノベーション~

    内部解体時
    構造体が石だけで支持されているのが分かる。

  • 北山の家 ~祖父の想いを繋ぐ古民家リノベーション~

    床断熱施工
    床断熱材には押出法ポリスチレンフォーム保温板を使用し、この後気密シートを施工している。

  • 北山の家 ~祖父の想いを繋ぐ古民家リノベーション~

    壁断熱施工
    壁・屋根は既存構造躯体の曲がりや隙間を考慮し、現場発泡ウレタンフォームを採用した。

  • 北山の家 ~祖父の想いを繋ぐ古民家リノベーション~

    基礎改修
    上部な構造を支持できる頑強な鉄筋コンクリート基礎を新設し、上部構造との一体化を図った。

間取り Plan

リノベーション前

  • 北山の家 ~祖父の想いを繋ぐ古民家リノベーション~

    図面上、下向きの谷側に表の顔を見せた建て方をしているものの、間取りは南向きのそれであり、西側に向いた土地には全く適しておらず、南側は床の間や仏間、押入、トイレで塞がって日が入らず、室内はどの部屋も薄暗く、逆に遮りたいはずの西日に建て主は悩まされていた。

リノベーション後

  • 北山の家 ~祖父の想いを繋ぐ古民家リノベーション~

    薪ストーブを中心とし、リビング・ダイニング・和室が一体となる大空間を実現し、複数の居場所を確保した。塞がれていた南側には大きな開口部を設け、温かな日差しを室内に取り込めるようになった。建物の端にあった座敷は中央に移設し、ご先祖様を奉る仏壇を家族の生活の中心で家族と共に過ごせるようにした。

物件概要

所在地
佐賀県佐賀市
敷地面積
863.62㎡(261.24坪)
延床面積
157.02㎡(47.50坪)
構造
木造在来2階建
既存建築年
1958年(築66年)
改修竣工年月
2022年02月
省エネ基準地域区分
6地域
断熱性能
UA値:改修後0.53w/㎡・K
耐震性能
上部構造評点:改修前0.16 ⇒ 改修後1.01
事業主
U様

企業紹介

企業名
松本設計
Webサイト
https://matsumotosekkei.com/
コメント

松本設計は佐賀県鳥栖市を拠点として、意匠と性能を両立した居心地の良い住まい、美しい風景をつくる建築の設計を通して、関わる全ての人を幸せにすることを目指しています。

グレードとは

性能向上リノベでは、断熱と耐震のそれぞれの現行基準を3段階に分類し、基準を策定。性能向上リノベーションがされた証として、必要なエビデンス情報を登録し、安心・快適な家であるお墨付きの証として「性能向上登録証」を発行しています。これからの時代に選ばれる、安心・快適な家を可視化します。

断熱

ランク UA値 断熱等級
0.46 6
0.60 5
0.87 4
耐熱の説明

耐震

ランク 上部構造評点 耐震等級
1.5以上 3
1.25~1.5
未満
2
1.0~1.25
未満
1
耐震の説明
  • 建物は、自立循環型モデル住宅(在来工法)を対象に、地域区分は、6・7地域(都心部を中心)に策定しています。
  • UA値(外皮平均熱貫流率)とは住宅の内部から床、外壁、屋根(天井)や開口部などを通過して外部へ逃げる熱量を外皮全体で平均した値。値が小さいほど熱が逃げにくく、省エネルギー性能が高いことを示します。
  • 上部構造とは壁や柱など家の構造物のこと。上部構造評点とは、震度6強の地震で建物が倒壊しないために必要な力を数値で表した必要耐力(Qr)に対する現状の耐力の割合を表します。
  • 既存木造住宅の上部構造評点1.0、1.25、1.5は、品確法においての耐震等級1、2、3レベルに相当します。